土留め工を施工するときに注意すること

~土木工事・施工管理の実務ポイント~

土留め工は、掘削作業を安全かつ効率的に進めるうえで、欠かせない仮設構造物のひとつです。特に都市部や地下水位の高い地域などでは、構造物や周辺環境への影響が大きいため、適切な計画と管理が求められます。

今回は、「土留め工を施工する際に注意すべきポイント」について、工程別に3つのテーマに分けて解説していきます。
現場における計画・管理・施工の各段階で、どのような点に注意すべきかを整理することで、施工トラブルを未然に防ぎ、品質と安全の両立を図りましょう。


テーマ①:土留め工【施工前】の注意点

結論:情報を集めることが最優先

土留め工の施工に入る前段階で、最も重要なのは「現場に関するあらゆる情報を把握しておくこと」です。施工環境を地上と地下に分け、それぞれの注意点を以下に整理します。

地上での確認ポイント

  • 重機・資材の搬入経路と設置可否
    クレーンや掘削機など、大型重機や鋼矢板といった資材の搬入ルートは確保されているか、また設置可能なスペースはあるかを事前に確認します。
  • 架空線などの障害物の確認
    重機の作業範囲に電線・電話線などの架空障害物が干渉しないかを確認する必要があります。場合によっては撤去や保護措置が必要になることも。
  • 施工順序の確認
    杭の打設順や切梁、腹起しなど、施工手順の確認は必須です。順序を誤ると工程全体に影響するばかりか、安全性にも支障をきたします。

地下での確認ポイント

  • 地質調査(ボーリングデータ)の確認
    地質条件を正確に把握しないまま着工すると、想定外の土質により施工困難や工期の遅延が発生します。必ず最新のボーリングデータを確認しましょう。
  • 地下水の有無と井戸の影響調査
    地下水位が高い場合、施工中に地下水が湧出することで、周囲の井戸水に悪影響を及ぼすことがあります。近隣で井戸水を使用している世帯があるかを調査し、水質への影響を含めて事前に対応策を立てておくことが重要です。
  • 埋設物の調査
    鋼矢板の打設箇所や掘削予定地に、上下水道、ガス管、電線、光ファイバーケーブルなどの埋設物がある場合、事故や損傷のリスクが伴います。事前の試掘や調査を徹底し、関係機関との調整も含めた対応が必要です。

テーマ②:土留め工【施工中】の注意点

結論:すべての工程を数字で確認・記録することが基本

施工中の管理では、「感覚」ではなく「数値」による確認が極めて重要です。ここでは測量と観測を中心とした管理ポイントを見ていきます。

測量による杭芯・通りの管理

鋼矢板や山留め杭の打設時には、測量機器(TS:トータルステーション)を用いて、「杭芯(中心位置)」と「通り(直線性)」を厳密に確認・記録します。
設計値との差異がある場合は、その場で発注者と協議し、設計変更や補強の対応を検討します。

土質と地下水の再確認

実際に打設や掘削を進めていく中で出てくる土砂の性状が、ボーリングデータと一致しているかを確認します。特に土質や地下水位については、掘削深度とともに随時観測することで、設計と実際の差を可視化し、必要な修正を加えることが可能です。

偏土圧による変位の監視

切梁や腹起しなどを設置する際に施工手順を誤ると、「偏土圧(片側だけに加わる不均等な土圧)」が発生し、最悪の場合、土留め全体の倒壊に繋がるリスクがあります。特に掘削後の切梁設置タイミングには注意が必要です。

また、掘削が進むにつれて、杭にかかる土圧により「変位(ずれ)」が発生する可能性があります。これについては以下のように管理します。

  • 変位観測の実施
    TS等を使用した動態観測で、杭や周辺構造物の変位を定期的に確認します。
    変位が設計許容値を超えた場合は、ただちに工事を中断し、発注者と協議のうえ対策を講じる必要があります。

テーマ③:土留め工【施工後】の注意点

結論:継続的な観測が安全確保のカギ

土留め工の完成後も、安心してはいけません。
「施工中には異常がなかったが、時間の経過とともに変位が進行していた」という事例も多く報告されています。
そのため、以下のような現象の有無を施工後も継続的に監視する必要があります。

注意すべき地盤変状の例

  • ヒービング
    粘性土を掘削する際、掘削底の下部の土が上に押し上げられ、床面が隆起する現象。過大な側圧や支持層の浮き上がりなどが原因。
  • ボイリング
    砂質土での掘削時、地下水とともに砂が湧き出す現象。土砂の流出による地盤沈下や、構造物の不陸沈下を招く危険があります。
  • 盤ぶくれ
    掘削底の下にある不透水層(粘土層など)が、地下水の圧力で隆起する現象。施工後の地下水位変動などによって顕在化することもあります。

これらの異常は、施工後しばらくしてから発生するケースもあるため、本体工事中も含め、定期的な床付け面の観測・記録が欠かせません。


まとめ:土留め工施工における3ステップの要点整理

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施工前情報を集める
施工中数字で確認する
施工後観測を継続する

土留め工は一見、仮設で一時的な構造物のように見えるかもしれませんが、実際にはその安全性が現場全体の施工品質や近隣への影響を大きく左右する重要な工程です。

したがって、事前の情報収集、施工中の数値管理、そして施工後の地盤挙動の観測という三段階すべてにおいて、確実な管理と報告が求められます。現場担当者の的確な判断と、丁寧な施工管理が、安全・安心な工事に直結します。